【後編】感染症BCP ― 長期化するリスクに備える
執筆:行政書士法人檀上事務所
■ はじめに
新型コロナウイルス感染症の流行は、障害福祉サービスの現場にも大きな影響を与えました。
また、インフルエンザやノロウイルスなどの感染症も、日常的に事業運営を脅かす要因です。
障害のある方々は基礎疾患や免疫力の低下などから、重症化や生活への影響を受けやすい傾向があります。
そのため、**感染症を想定した業務継続計画(感染症BCP)**を整えることは、福祉現場において不可欠です。
■ 感染症BCPの目的
感染症BCPの目的は、
- 利用者と職員の健康・安全の確保
- 可能な限りのサービス継続
の2点です。
自然災害BCPと異なり、感染症BCPでは長期化・繰り返し発生という特徴を踏まえた備えが求められます。
■ 感染症BCPに盛り込むべき視点
1. 感染予防と早期発見
- 手洗い、マスク、換気などの日常的な感染対策
- 体温測定や症状チェックの習慣化
- 感染疑い時の即時報告ルール
2. 感染者発生時の対応
- 発症者用の隔離スペース確保
- 医療機関・保健所との連絡ルート明確化
- 他利用者・職員への感染拡大防止策
3. 職員体制の維持
- 欠勤時の代替要員確保(派遣、外部応援など)
- 優先すべき業務と縮小可能な業務の整理
4. サービス継続の工夫
- 通所系では在宅支援や電話・オンライン見守りの導入
- 居宅系では防護具を用いた訪問継続や緊急度の調整
5. 物資・備品の備蓄
- マスク、消毒液、手袋、防護衣、非接触体温計
- 医療的ケア用の予備電源・吸引器
6. 定期的な訓練と見直し
- 年1回以上の机上訓練・シミュレーション
- 流行状況や行政通知に合わせた更新
■ 現場でよく聞かれる課題
- 「防護具はあるが使い方が統一されていない」
- 「陽性者が出た時の具体的な支援方法を決めていない」
- 「欠勤が重なった場合の業務継続方法が曖昧」
- 「利用者や家族への情報発信が遅れる」
■ おわりに
感染症BCPは、単なるマニュアルではなく、日常の感染対策と緊急時の行動を結びつける実践的な指針です。
完璧を目指すよりも、まずは現場で実行可能な内容から整え、職員全員が共有しておくことが重要です。
利用者が安心して生活を続けられる環境を守るために、平時からの備えが未来の安全を支えます。
次回の【第3弾】では、「複合災害BCP ― 自然災害と感染症が同時に起こったら」について解説します。