【前編】自然災害BCP ― 命を守り、事業を継続するために
執筆:行政書士法人檀上事務所
■ はじめに
地震、台風、豪雨――日本に暮らす私たちは、毎年のように自然災害に直面しています。
障害のある方々は、避難に時間がかかったり、医療的ケアが必要だったりと、災害時に特別な支援を要するケースが少なくありません。
障害福祉サービス事業所が**自然災害を想定した業務継続計画(BCP)**を整備することは、利用者の命を守り、事業を継続するために不可欠です。
■ 自然災害BCPの目的
BCP(Business Continuity Plan)の目的は、
- 利用者と職員の安全確保
- 不可欠なサービスの維持・早期再開
の2点に集約されます。
災害時に慌てて対応策を考えるのではなく、平常時から「誰が、何を、どうするか」を明確にしておくことが、被害を最小限に抑える鍵となります。
■ 自然災害BCPに盛り込むべき視点
1. 安否確認体制の整備
- 複数の連絡手段(電話・メール・SNS・FAX等)を確保
- 連絡が取れない場合の行動ルールを設定
2. 避難誘導と拠点の確保
- 車いす利用者や医療機器を使う方にも対応できる避難場所の設定
- 避難経路図や段差・狭小部の改善検討
3. 物資備蓄の計画
- 非常食・水だけでなく、常用薬や医療器具の電源、補装具の予備も確保
- 使用期限や在庫管理の仕組みづくり
4. 役割分担と訓練
- 誘導係、救護係、記録係などの担当者を明確に
- 年1回以上の避難訓練・机上訓練を実施し、記録を残す
5. 計画の継続的な見直し
- 利用者の状況や地域のリスクの変化に応じて更新
- 年度末や新年度に合わせた見直し体制
■ 現場でよく聞かれる課題
- 「避難所までの移動に時間がかかる」
- 「安否確認シートを作ったことがない」
- 「備蓄が十分か判断できない」
- 「職員が少なく、役割分担が曖昧になっている」
これらの課題は多くの事業所で共通しており、BCP策定の出発点にもなります。
■ おわりに
自然災害BCPは、単なる行政要件ではなく、利用者と職員を守るための行動指針です。
完璧な計画でなくても、まずはできるところから始めることが大切です。
日常の延長線上にある「備え」が、いざという時に命を守ります。
次回の【後編】では、「感染症BCP ― 長期化するリスクに備える」について解説します。