🏛 中小企業の承継対策に「黄金株(拒否権付種類株式)」という選択を。
はじめに:後継者に全てを託すことへの“ためらい”
中小企業の経営承継は、単なる「株の移動」ではありません。
それは、経営権・資本・理念という三つのバランスをどう次代に引き継ぐか、という極めて繊細なプロセスです。
特にオーナー経営者が高齢となり、
「後継者に会社を譲るけれど、まだ完全には任せきれない」
という状況において、
一時的に経営のブレーキを手元に残しておく法的手段として、
いま注目されているのが 「黄金株(拒否権付種類株式)」 です。
第1章 黄金株とは何か ― “たった1株”が会社を止める力を持つ
■ 定義
黄金株とは、会社法第108条第1項第8号に基づく
「拒否権付種類株式」 のことを指します。
通常の株主総会決議に加え、
「この種類株主(黄金株主)の同意がなければ決議できない」
と定款で定めた株式です。
■ 仕組み
例えば、以下のような重要事項を
黄金株主の同意なしでは決められないようにできます。
- 定款変更(会社の根本規則変更)
- 取締役の選任・解任
- 合併・分割・事業譲渡・解散などの特別決議
- 多額の借入・主要財産の売却など(取締役会設置会社では会社法362条第4項が定める重要な財産の処分等)
このように「ブレーキ」として働くのが黄金株の最大の特徴です。
第2章 事業承継における黄金株の役割
■ 後継者への“信頼と警戒”を両立する株式設計
中小企業の承継では、
後継者に株式をすべて譲渡してしまうと、
オーナーは経営判断に一切関与できなくなります。
しかし、黄金株を1株だけ手元に残せば、
形式上は支配権を手放しても、
重要な意思決定だけは創業者の承認が必要になります。
例:「新しい事業を立ち上げるには父(創業者)の承認が必要」
→ 反対に日常的な運営は後継者が自由に行える
このバランスが、
「任せながら守る」という承継期の最大の課題を解決します。
第3章 黄金株の主な活用パターン
1. 創業者が持つ「承認権」としての黄金株
創業者が1株の黄金株を保有し、
後継者に他の全株式を譲渡するパターン。
合併・事業譲渡・代表者交代などの重大事項にのみ拒否権を設定します。
📘 効果:
・会社売却や経営方針の急変を防ぐ
・承継初期の経営リスクを抑制できる
2. 事業承継信託・親族間承継との併用
黄金株は、信託スキームや親族持株会社と組み合わせることで、
複雑な承継設計にも対応可能です。
📘 効果:
・名義上は子(後継者)が経営
・実質的には親(委託者・黄金株主)が最終承認者として関与
→ 株式信託・持株会社化とセットにすれば、
節税・支配・ガバナンスを一体的にデザインできます。
3. M&A・外部資本導入時の防衛策として
第三者承継(M&A)でも、黄金株は極めて有効です。
特に、VC(ベンチャーキャピタル)やPEファンドが関与する際、
創業家の意向を残すために「1株の黄金株」を設定する例が増えています。
📘 効果:
・敵対的買収をブロック
・過剰なリストラ・合併などの暴走を制御
・経営権と資本を分離して安定的ガバナンスを構築
第4章 取得条項を組み合わせることで“出口”を作る
黄金株を恒久的に残すと、次世代で経営の自由度が下がります。
そのため、実務では「取得条項」を併設し、
創業者が退任・死亡した際に自動的に会社が買い戻す仕組みを組み込みます。
📘 取得条項の典型例:
「A種類株主が取締役を退任または死亡したとき、会社は当該株式を1円で取得できる。」
これにより、創業者の生存中のみ黄金株が機能し、
承継が安定した段階で自然に消滅します。
第5章 黄金株を発行する際の法的手続き
黄金株の発行は、一般株式と異なり「定款変更」が必要です。
会社法108条に基づき、株主総会で特別決議(議決権の3分の2以上)を経て定款を変更します。
【基本手順】
1️⃣ 定款に「A種類株式(黄金株)」の内容を追加
– 拒否権の対象事項
– 取得条項(任意)
– 発行可能種類株式総数(例:A種類株式1株)
2️⃣ 株主総会で定款変更を決議(特別決議)
3️⃣ 発行済株式のうち1株を黄金株に変更(全株主の同意必要・会社法322条)
4️⃣ 法務局へ「定款変更登記」
– 登記すべき事項:「A種類株式1株/拒否権・取得条項付」
– 登録免許税:3万円
第6章 中小企業における実務上のメリットと留意点
■ メリット
項目 | 内容 |
---|---|
経営防衛 | 後継者の暴走・外部勢力の介入を防げる |
信頼継承 | 創業者の理念・ブランドの方向性を維持できる |
柔軟な承継 | 承継初期のみ効力を持たせ、退任時に消滅させられる |
税務上の中立性 | 株式数・資本金が変わらないため贈与・譲渡課税が原則発生しない |
■ 留意点
観点 | 内容 |
---|---|
法務局審査 | 拒否権の対象が広すぎると補正指摘を受ける(第309条第2項・第3項・第4項程度に限定) |
株主間調整 | 黄金株の存在が他の株主の不信感を招く場合がある |
長期運用 | 創業者死亡後に黄金株が残ると承継が停滞するため、取得条項を明確に |
第7章 黄金株を活用した“理想的な承継ストーリー”
- 創業者が黄金株を保有
- 後継者が全株式を承継し、実質的に経営を担う
- 承継初期:創業者がブレーキ役として拒否権を持つ
- 承継安定期:会社が黄金株を取得し、完全な経営移行を実現
このように、黄金株は“承継の緩衝材”として機能します。
支配権を一気に手放さず、段階的に移行できることこそ最大の魅力です。
第8章 行政書士がサポートできること
行政書士は、
- 定款変更の立案・文案作成
- 株主総会議事録・同意書の整備
- 登記に必要な書類のリーガルチェック
- 家族間契約書(合意書)の作成
といった「法的設計と書類整備のすべて」を支援します。
また、承継に関する黄金株は、税理士・司法書士・M&Aアドバイザーとの連携が不可欠です。
檀上事務所では、これら専門家と連携し、
「家族に争いを残さない承継設計」を実現しています。
おわりに:黄金株は「会社を守る最後の1株」
黄金株は、単なる特別な株ではなく、
創業者の意思と理念を次代につなぐための最後の防波堤です。
たった1株でも、会社を大きく守る力があります。
そして、黄金株をどう設計し、いつ手放すか――。
その判断こそ、事業承継の真の“出口戦略”といえるでしょう。
📞 行政書士法人檀上事務所では、
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