【第2回】旅館業の区分はどれを選ぶ?―失敗しない営業区分の決め方
はじめに
旅館業許可の相談で、**最初につまずきやすいのが「営業区分の選択」**です。
「旅館」「ホテル」「簡易宿所」「下宿」――名称は似ていますが、選択を誤ると、設計・消防・費用・スケジュールが大きく狂います。
第2回では、**各営業区分の違いと、実務で“選ばれる理由/避ける理由”**を行政書士の視点で整理します。
1.旅館業の4つの営業区分(全体像)
旅館業法上の営業区分は次の4つです。
- 旅館・ホテル営業
- 簡易宿所営業
- 下宿営業
4.(旧区分/実務ではほぼ使用されない)
実務で検討対象になるのは、①②③の3つです。
2.旅館・ホテル営業|フロント常設が前提の“王道”
特徴
- 客室が個室中心
- 帳場(フロント)常設が原則
- 建物規模・設備要件が重い
向いているケース
- 中〜大規模施設
- 有人フロント運営
- 新築・大規模改修が可能
注意点(実務)
- 無人運営は原則不可
- 消防・建築基準の負担が大
- 既存住宅・空き家転用には不向き
👉 小規模・空き家活用では、ほぼ選ばれません。
3.下宿営業|長期滞在専用で用途が限定的
特徴
- 1か月以上の長期滞在が前提
- 観光・短期宿泊には不向き
向いているケース
- 学生・研修生向け
- 寮・寄宿舎的な運営
注意点
- 観光客向けOTAと相性が悪い
- 収益性・流動性が低い
👉 観光・インバウンド目的では、ほぼ選択肢外です。
4.簡易宿所営業|実務で最も選ばれる理由
結論から言うと、**現在の宿泊ビジネスで最も現実的なのが「簡易宿所営業」**です。
簡易宿所の特徴
- 1つの宿泊単位に複数人を宿泊させる形態
- ドミトリー型だけでなく、個室型でも可
- 無人運営との相性が良い
実務で選ばれる理由
- 年間営業日数の制限なし
- 民泊より社会的信用が高い
- 小規模・空き家・既存建物で対応可能
- 帳場要件を柔軟に整理できる
5.「簡易宿所=ドミトリー」は誤解
よくある誤解が、
「簡易宿所=相部屋・カプセル」
というものです。
実際には、
- 個室×複数室
- 一棟貸し
- 家族・グループ利用
といった形態でも、要件を満たせば簡易宿所として許可されます。
重要なのは、
👉 「建物の使い方」と「運営形態」をどう説明するか
です。
6.営業区分は“後から変えられない”ことが多い
営業区分の選択は、次の点に直結します。
- 建築基準法上の用途
- 消防設備の種類・規模
- 図面構成
- 保健所の審査基準
一度「旅館・ホテル」で設計を進めると、
簡易宿所へ後戻りできないケースも少なくありません。
だからこそ、
📌 最初の段階で行政とすり合わせた区分選択が重要になります。
7.行政書士が区分選択で果たす役割
営業区分は、法律の条文よりも「運用」がものを言う分野です。
行政書士が関与することで、
- 物件条件から“現実的な区分”を提示
- 保健所・消防のローカル運用を踏まえた判断
- 将来の運営(無人化・拡張)まで見据えた設計
が可能になります。
まとめ|第2回のポイント
- 旅館・ホテルは小規模案件には不向き
- 下宿は観光目的では選ばれにくい
- 実務の主流は「簡易宿所」
- 区分選択は後戻りが難しい
- 最初の判断で、費用と期間が大きく変わる
次回予告
第3回|申請前に必ず確認!物件調査で9割決まる旅館業許可
→ 用途地域・建築基準・接道・既存不適格など、物件NGを見抜く実務チェックを解説します。
✍️ 行政書士法人檀上事務所では、旅館業許可における営業区分の選定から事前協議まで一貫して対応しています。
「この物件でいけるか?」という段階から、お気軽にご相談ください。
