🏯 寺の宿坊と旅館業──宗教と観光の融合を支える法務の最前線
行政書士法人檀上事務所|宿坊・民泊・旅館業専門コラム
はじめに:いま「寺に泊まる」という選択が注目されている
日本の寺院は、長らく「祈り」「供養」「静寂の場」として地域に根づいてきました。
しかし、少子高齢化や檀家減少によって、全国で寺院の維持が難しくなっている現実があります。
そんな中、「宿坊(しゅくぼう)」という形で寺院が宿泊施設として開放され、
参拝者だけでなく観光客・外国人旅行者にも門戸を開くケースが増えています。
宿坊は、単なる宿泊ではなく――
- 朝のお勤めや座禅体験
- 精進料理の提供
- 歴史的建築に泊まる体験
などを通じて、日本文化と精神性を伝える体験型観光として注目されています。
こうした新しい寺院の活用は、
「旅館業法」「宗教法人法」「建築基準法」「消防法」など、
複数の法制度の交差点にあり、行政書士の専門知識が不可欠です。
第1章 宿坊とは何か──信仰施設から観光資源へ
「宿坊」とは、神社や寺院などの宗教施設に併設された宿泊施設を指します。
もともとは巡礼者や修行者のための宿泊所でしたが、
現代では「宗教体験を伴う宿泊施設」として観光事業化されています。
▪ 宿坊が人気を集める理由
- 静寂な空間と精神性:ホテルにはない“静けさ”と“非日常”。
- 文化体験:座禅・写経・護摩祈祷・精進料理など。
- 歴史的建造物:文化財建築や庭園に泊まる体験価値。
- インバウンド需要:ZEN・瞑想・マインドフルネスへの海外人気。
こうした価値を観光に結びつけるには、
単なる寺泊ではなく、旅館業法上の適法な宿泊事業として整備する必要があります。
第2章 旅館業法の適用──宿坊運営の法的ライン
寺院が宿泊料を受け取って一般客を宿泊させる場合、
その行為は旅館業法(昭和23年法律第138号)の「営業」に該当します。
▪ 宿坊が該当する営業形態
多くの場合は「簡易宿所営業」に分類されます。
旅館業法第2条に定義される4類型のうち、
「簡易宿所」は相部屋や小規模宿泊を前提とした施設区分であり、
宿坊のような形式に最も近いとされています。
▪ 許可取得までの流れ(行政書士が関与する主な工程)
- 用途地域・建築確認(建築指導課)
- 構造設備基準の確認(保健所)
- 消防法に基づく同意申請(消防署)
- 図面・配置図・宿泊室構成の作成
- 現地検査・営業許可証交付
▪ 設備基準の一例
- 宿泊者1人あたりの面積:3.3㎡以上
- 適切な換気・採光・照明設備
- 洗面・トイレ・寝具・清掃体制
- 消火器・火災報知器・避難経路図
これらの基準を満たして初めて、寺院建物を「宿泊施設」として営業できます。
第3章 宗教法人法・税務上の留意点
宿坊を運営する際に最も注意すべきなのが、宗教法人法と税務の関係です。
▪ 宗教法人の収益事業該当性
宗教法人が宿泊料を受け取る場合、その活動は「布教活動」ではなく、
法人税法施行令第5条第1項第2号の“旅館業”に該当する可能性があります。
したがって、収益事業開始届出書を税務署へ提出する必要があります。
また、定款(規則)に「宿泊施設の運営」「参拝者の接待」などの文言を追加し、
宗教活動との関係を明確化する改正を行うことも推奨されます。
▪ 行政書士の関与
- 定款変更認可申請(都道府県宗務課)
- 理事会・責任役員会議事録の整備
- 収益事業届出・会計区分の文書化
- 宗教法人規則における「宿泊・体験事業」条項の整備
これらの手続は宗教法人と税務署・県庁をつなぐ調整が必要であり、
行政書士が全体統括を担うとスムーズです。
第4章 用途変更・消防法対応という実務的ハードル
古い寺院建築は「住宅」「寄宿舎」「文化財建築」として登録されていることが多く、
宿泊施設として使うには建築基準法上の用途変更が必要な場合があります。
▪ 具体的な法的課題
- 寄宿舎→旅館・簡易宿所への用途変更
- 延べ床面積200㎡超の場合の確認申請義務
- 無窓階・避難経路・非常照明設備の整備
- 消防設備設置計画書の提出・消防同意
これらは建築士・消防設備士との連携が不可欠であり、
行政書士は「法令調整の窓口」として全体を取りまとめる役割を担います。
第5章 宿坊開業に向けた補助金・制度支援
近年、観光庁・文化庁・地方自治体が「寺院再生・文化財利活用型観光」を後押ししています。
▪ 代表的な支援制度
| 補助金名 | 内容 | 対応主体 |
|---|---|---|
| 観光庁「地域一体型観光事業」 | 寺院・歴史建築を観光資源化する取組 | 観光課・自治体 |
| 文化庁「歴史的建造物活用推進事業」 | 文化財建築を宿泊施設等に改修 | 文化庁・県文化課 |
| 中小企業庁「ものづくり補助金」 | 改修・設備導入費 | 事業者単体 |
| 各県の「観光振興交付金」 | 地域宿泊施設整備・体験プログラム補助 | 県庁観光課 |
これらの申請書類や事業計画書の作成も、行政書士の得意分野です。
特に「宿坊+体験事業」を一体化させた企画書は、補助採択率が高くなります。
第6章 行政書士が果たす役割と今後の可能性
寺院宿坊は、宗教・観光・建築・地域振興の境界に立つ複雑な事業です。
その分、行政手続・協議・調整が膨大になります。
行政書士は、その全体を“法令の翻訳者”かつ“調整者”として支援できます。
▪ 行政書士の主要業務領域
- 旅館業・民泊・用途変更許可の一括代行
- 宗教法人の定款変更・収益事業届出支援
- 消防・保健所・建築指導課との事前協議
- 契約書・宿泊約款・利用規約の整備
- 補助金・助成金申請書の作成
- 年次更新・運営顧問契約による継続支援
▪ 今後の市場性
宿坊案件は「宗教法人+観光」という希少分野であり、
対応できる専門家が少ないため、行政書士のブルーオーシャン市場です。
さらに、宿坊を起点に「地域観光・古民家再生・農泊・福祉観光」など、
派生業務への展開も可能です。
結語:寺院の未来を、法務から支える
宿坊は、単なる宿泊施設ではありません。
それは“地域の歴史と祈りを、次の世代に伝える場所”です。
行政書士が法務・手続・制度の面からその実現を支援することは、
寺院を守り、地域を再生する社会的な使命といえるでしょう。
行政書士法人檀上事務所では、宿坊・寺院民泊・簡易宿所の開業支援を専門的に行っています。
許可申請から消防・建築・補助金まで一括対応。
寺院の文化と地域の未来をつなぐ宿坊モデルを、法務の力でサポートいたします。
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